はじめてメキシコを訪れた旅行者は、素晴らしい景観より先に、街の汚さとともに走っている車のポンコツさ加減に驚かされることが多い。
アメリカと同様に車検制度にあたるものが無く、さらにはカリフォルニアでは結構厳しくなった排ガス検査もほとんど行われていないのだろう。高速道路の料金所のような国境をくぐり、メキシコ側に一歩足を踏み入れると、排気ガスの匂いと砂の匂いが入り混じった独特のメキシコ臭(?)がする。
そして、ドアの色が違う車や、フロントウィンドグラスのひび割れた車を見かけることになる。
国境の町ティファナや、BAJA1000のスタート地エンセナダの街では、カリフォルニアナンバーの車も多く見かけるが、アメリカ人所有の物ではなく、アメリカから持ち込み、そのまま使用しているものであろう。
たいていはぶつけた跡に錆び止めのペイントがしてあったり、あきらかに調子の悪そうなエンジン音をさせて黒煙を撒き散らしていたりする。

メキシコの車といえばフォルクス・ワーゲン・ビートルが有名だ。
1936年にドイツで製造開始、本国ドイツでは78年に製造中止となったが、メキシコではその後も2003年までに170万台生産され、大人2人と子供3人が乗れて荷物が詰めて、経済的で壊れない車として、特にメキシコシティではタクシーに使われるなど、まさにメキシコの大衆車となっている。
BAJA1000のレースでも「バハバグ」といわれる車両カテゴリーのクラスがあるくらいだ。トップクラスの車両のエンジンは、ポルシェのエンジンを積んでいるものだが、スタイルはビートルそのものでどこか可愛らしく、BAJAのレース車両の中でも象徴的な存在である。

メキシコ本土の特にフォルクス・ワーゲン工場のある地域では、走っている車の半分くらいがビートルということがあるようだが、バハではやはりアメ車が多い。
ミニバンやピックアップトラックなど、型式は古いものの、アメリカで多く走っている車種はよく見かける。大きな街の国道沿いにも、FORDやGMのディーラーが目立つ。
日本車はカリフォルニアに比べれば少ないと思われるが、いわゆる大衆車、カローラやなつかしいシビックなんかも見つけて驚かされる。その中でやはり1番目にするのはTOYOTAやDATSUNのピックアップトラックだ。荷物が積めて少々の荒れた路面でも走行が出来る、実用本位の車たちだ。

レース中、サポート隊はバハカリフォルニア半島の付け根から突端までの約1600kmを唯一縦断する国道でライダー達を追いかける。1時間にすれ違う車両を数えることが出来るほどしか出会わないときもあるが、最もバハらしい車種は長距離トラックに他ならない。
物流手段で最も安価な陸送便は食料品からガソリンまで、毎日あらゆる物を北から南へと運んでいる。中には2両編成のトレーラーもあるくらい、大きく長いので、片側1車線の、ハイウェイとはなばかりの国道ですれ違う際はある種の賭けの様である。サポートカーも道幅いっぱいのキャンピングカーだからだ。
同じく、夜間走行で印象的な通称「ネコバス」。メキシコでは電車よりもバスのほうが時間に正確といわれるように、長距離バスはよく整備されているので、よくすれ違う。車幅、車高を示すオレンジや赤のライト、そして窓からこぼれる車内の明かりが、電灯の無い荒野の1本道では異常に目立つのである。

街を離れれば砂とサボテンの荒野が広がるバハカリフォルニアでの生活に車は欠かせない。
広大な土地を移動する手段として、あるいは買い物や、通勤の足にも今や馬やロバでは、しょうがない。
とはいっても、舗装されていない道でしか行く事が出来ない村の中では今も馬やロバも現役なんだけど。
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