世界最長のスプリント、偉大なる草レースと呼ばれるBAJA1000。
バイク、あるいは車があれば、誰でもエントリーできる、ある意味草レースといえる形態でありながら、世界のトップライダー、トップドライバーが賞金と名誉をかけて戦いを繰り広げる世界的にも有名なデザートレースである。
最新の技術を投入したトロフィートラックと呼ばれるモンスターマシーンが原始のままの大地を駆け抜ける。その迫力ある姿を見るだけでも価値がある。

舞台となるのは、メキシコ・バハカリフォルニア半島。人々は長い間この砂とサボテンの大地にも安住の地を見出し生活してきた。
本州とほぼ同じ大きさの半島に、大きな街は数えるほどしかないが、現代は開発も進み、人口も増えているようだ。しかし、牧畜や漁業とトマト農場そして観光以外大きな産業がない、決して裕福とはいえない地域での娯楽は少ない。舗装の道路も通じていない村では、何年かに一度やって来るルチャ・リブレ(プロレス)と、サーカスの興行が大事なイベントだ。
衛星テレビや、携帯電話の普及も進み地域格差は小さくなっているとはいえ、そんな人々の年に一度の楽しみのひとつがBAJA1000の観戦だ。
BAJA1000のレース日程は木曜日に受け付け・車検、金曜日にレーススタート、土曜日にゴール、日曜日に表彰式となる。土、日はともかく、車検日とレースデイは、平日であるにもかかわらず、この人たちは仕事していないのだろうかと心配になるほどの人出だ。

スタート地の港町エンセナダは、アメリカのファストフードチェーン店や、コンビニエンスストア、会員制スーパーなども多く軒を並べる大きな街だ。都市としての機能を備え、海沿いの一角は観光地となっている。
木曜日は、その海沿いに位置する車検会場となる広場に、スポンサー企業のブースとスーベニアショップ、そしてタコスの屋台が並び、バンドの生演奏でキャンペーンガールが踊る、まさにお祭り状態だ。地元のメキシカン達は、タコスとビールを片手に各ブースを覗いたり、記念Tシャツやレース関係グッズを買い求める。もっとも毎回300台ほどの2輪、4輪がエントリーするのでレース関係者だけでも1000人を軽く超える人間がその周辺にいるので、参加者だか観客だかわからないが。
お祭り気分を味わったら、翌日金曜日は、早朝からレーススタートとなる。まだ夜も明けきらない朝6時に、2輪のトップがスタートしていく。30秒間隔で約100台のバイク、クワドが砂埃の中に消えてゆく。
年によっては、スタート地点に観客席が設けられ、上着が必要な寒さの中、1台スタートするたび熱気を感じるほどの声援が送られる。

レースコースは、諸事情により、3年に一度半島を縦断するいわゆるオリジナルのBAJA1000コースとなるが、その他の2年は、半島の北部分でスタート地に戻るループのコースとなる。
観戦者にとっては、このループコースの方が楽しめるのだ。サポートクルーは、舗装された国道を走りレースを追いかけ、レースコースとクロスする地点で、ライダー・ドライバー交代を行い、給油やタイヤ交換の作業をするが、見物人も同じく国道を使いレースを追いかけることができるからだ。

地元メキシカンは、住まいの近くのレースコースで一度だけ、通り過ぎるマシーンを見物する人たちがほとんどだろうと思っていたが、次の観戦場所をどこにしようかとコース図を見ている連中も結構いるのだ。レース前半で、まだそれほど差がついていないライダーたちを一通り応援したら、車両間隔が程よくばらけたレースコースの中ほどまで移動して、暗くなるまで観戦するといった楽しみ方ができる。
そして、レース観戦に欠かせないのは、タコスを作るためのバーベキューセットとクーラーボックスに冷えたビール。
砂にまみれて、汗水たらしてもがいているレーサー達は、結局、酒の肴ってところか・・・。
|