本州よりは少し小さいが、それでも南北1600kmにも及ぶバハカリフォルニア半島の付け根から突端まで続いている舗装路は国道1号線一本だけだ。
国道といっても、砂とサボテンの荒野の中に片側1車線の対面通行路が延々続いているのであって、青森から下関まで、町道でつながっていると考えるとイメージしやすいかも知れない。
その舗装路以外は、原始のままの大地を申しわけ程度に切り開いた幾筋かの未舗装路だ。東北道、東名、名神、中国道をつなげて縦断する以外、その他の道は本州全部がオフロードって感じである。
オフロードライダーにとっては天国のような環境だが、その土地で生活している人々にしてみれば、舗装化を望んでいるのかもしれない。我々の勝手な要望としては、舗装路を増やさないで欲しいところだ。

メキシカンハイウェイ1と、名前だけはハイウェイになっていて、荒野の直線路は制限速度が90km/hで走行できる。ただ、できるだけ最短距離で南北をつなぐ様に設計されているせいか、山岳地帯に入ると急勾配の坂道や急カーブが続いたりしていて、制限速度が40km/hくらいになる。
そんなところには、必ず十字架とマリア像があって、回収されないトラックの残骸が崖下に錆びていたりする。コンボイトラックを道幅いっぱいに走らせるトラック野郎が不幸にして転落するケースが多い様である。
南北を貫く国道は生活物資の大切な輸送路なのだ。大量のトマトを積んだトラック、でっかいコカコーラの絵が描かれたロードトレイン、荷台に牛を積んだピックアップトラックなど積載物を見れば彼らの生活も想像できるくらいだ。

町道のようなハイウェイであるので、当然サービスエリアなどはない。南北1600kmの間に大きな街がいくつがあるが、それらの間隔は遠いところで300km程離れている。その間はガソリンスタンドもない本当の荒野だ。しかし、そんな土地にも人は暮らしていて、牧場やささやかな農業を営んでいるのだろう。
何もないところにぽつんと一軒だけの家や、数件の建物が軒を連ねた集落と規模は様々だが確かに生活の証がある。トラック運転手だけでなく、我々旅行者も助かるのは、これらのたくましい人々の経営するミニストアや、レストランだ。
バハでは珍しい道路標識をみかけるが、レストランの標識もそのひとつ。サボテンの林を抜けるとロードサイドに突然現れる青地に白で描かれたナイフとフォークの絵の標識だ。実際立ち寄ってみるとレストランと書いてあっても、レンガかブロックで建てられた建物にテーブルが2つか3つしかないような所で、メニューもブリトーのみというのがほとんどである。もっとも「ブリトーしか出来ないよ」といって出してくれるチーズ入りのそれが最高にうまかったりするのであるが。
また、集落にはミニストアがあって、少しの食料品、飲み物、タバコ、モーターオイルなどを扱っている。かならずTECATEビールの看板がかかっていてコンビに的役割の店となっている。
運転手には悪いけれど、灼熱の荒野でビールを飲めばミニストアやロードサイドレストランはまさに砂漠のオアシスだ。

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