BAJA1000のレースでのトラブルは、国内のツーリングやレースでのそれと変わらないが、やはり異国の地でのトラブルは、緊張する物である。
パンク1つにとっても、漆黒の闇の中誰もいない荒野での修理は心細くもなる。
ただ、レース中であれば、後続車がいたり、観客のメキシカンがたまたま居たりと、まったくの一人ということは少ない。

最も多いと思われるトラブルは、パンクを含めたタイヤ・ホイールに関する物だろうか。ムースを使用していても、潤滑不足や、度重なる衝撃で、いわゆる「ムースが溶ける」という現象でパンクすることもある。実際は、ウレタン状のムースがボロボロ、粉々になってしまうのだが、こうなると、予備のチューブでもない限り、相当走行に困難をきたす。
また、俗に言う隠れ岩ヒットした場合、チューブであればリム打ちで裂けてしまうのが多いだろう。また、リム自体も変形し、更にはスポークが緩み、ガタガタになる。
マイナートラブルでは、ガス欠もよく見る。ガソリンピットサービスと契約し、およそ100kmの間隔で給油は可能だが、ビッグタンク装着で給油時間の短縮のつもりか、1つ飛ばしにしたり、通り過ぎてしまったりということだと思うが、「ガソリン分けてくれないか」とお願いされる事がある。契約したピット以外でもガソリンを分けてくれることがあるので、運良く見つければ何とかなることもあるが、完全にカラになっては、どうしようもない。
転倒による各部の破損は、ガード類でカバーできるが、そのガード類の変形で、走行に影響するトラブルが起こる場合もある。たとえば、ブレーキディスクガードや、チェーンガードの変形だが、最悪は取り外してしまえばいい。

2スト全盛の時代は、焼きつきや、ピストンの穴あきなどガソリン、オイルなどによるトラブルあった。100オクタン以上のレースガスのはずが、ピットクルーの自分達の車用ガソリンでも入れられたのだろうか、あるいは、メキシコのガソリンをそのまま入れたのだろうか、スタートして数Kmで、天を仰ぐモトクロッサーライダーもいた。
また、BAJA1000での象徴的なナイトラン時の電装系トラブルは、厄介だ。95年のBAJA1000では、配線上のカプラーで、マイナス端子部の断線でヘッドライトが点かなくなることがあった。
夜半には交代ポイントに来るはずの第1ライダーが、翌朝ようやく戻ってきた。途中までは、作業用のヘッドランプの明かりだけで走行し、ギャップで何度も転倒しながら走っていたようだ。しばらくして、四輪のピットに飛び込み、原因を突き止めようやくライトを点灯させての走行だった。
そして時にはミスコースもある。
基本的には、1600Kmもの距離にコースマーカーが設置されていて迷う事はないが、稀に、特に夜間にミスコースする場合がある。
コースマーカーは、蛍光ピンクあるいは蛍光オレンジ下地の20cm×30cm位の厚紙に、黒の矢印で描かれたマークが基本で、時にはコース脇の石やサボテンに直接かかれている場合もある。ただ、これは最近、環境問題で減ってはきたが。
また、夜間に見やすい様に反射テープがそのコースマーカーに張られていたり、黄色いコーステープが木の枝に縛られていて、そこにやはり反射テープが巻かれていることもある。
Y字路の右がコースであれば、分岐の数百メートル手前から、右向きの矢印がその分岐の直前まで2〜3回表示され、分岐後に、オンコースである事を意味する真っ直ぐの矢印が1回表示されるのが普通である。「普通」というのは、普通じゃないところもあるからだ。レース中に四輪のレース車両がコースマークを倒して行くことが多いが、地元メキシカンが持っていってしまうこともあるようだ。
そんなときは、先行者が付けたと思われる轍を頼りに、あるいは、接近している場合は砂埃を頼りに進む。最低5マイル走行すればオンコースを意味するコースマーカーがあるはずなので、万が一マーカーが現れなかったら、ミスコースということになる。
10人いれば10個以上のトラブルがあるだろう。もちろん重大なトラブルは避けたいが、何も無いのも土産話がなくなってしまう。トラブルもレースの楽しみ方だと、余裕を持つのがよいのだろうか。
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