メキシコ、バハと聞いて連想する言葉で、「乾燥」と挙げる方も多いと思う。たしか、年間の降水量が東京の1/5。つまり、年平均の二月ちょっと分しかなかったはずだ。植生も乾燥した土地に適応するサボテンなどの多肉植物、潅木が中心だ。気候区分でいうと、いわゆる砂漠気候である。
当然、河川も山脈近辺からの大きな流れを除き、そのほとんどが、乾いた大地に吸い込まれるようにして流れを途絶える。湖も同様、流れ込む川が涸れれば、しだいに干上がり、やがては広大な平で乾いた土地となる。
これがドライレイクだ。スペイン語では、LAGUNA SECA(ラグナ・セカ=乾いた湖)だ。

半島の付け根、アメリカとの国境の町メヒカリの西、コロラド川の最下流部周辺に、おそらくバハで最も大きいであろうドライレイクがある。中央部は、マイナス海抜だ。国境から、バハカリフォルニア湾への河口まで直線距離にして約50kmもの干上がった土地が続いている。
また、半島中央部の砂漠地帯にも大小いくつかのドライレイクが点在する。バハのツーリングでも訪れる事の多いカリフォルニア湾側の街SAN FELIPE(サン・フェリペ)から内陸へ50kmほどのところに広がるLAGUNA SALADA(ラグナ・サラダ)は、一部が表面に塩の結晶が光る、ソルトレイクだ。20kmを越える平らな道が白い世界を貫いている。
南に下りサボテンが林立する、バハのバハらしい景観が広がるCATAVINA(カタビーニャ)から少し下ったところに、周囲10kmほどの小さなドライレイク、LAGUNA CHAPARA(ラグナ・チャパラ)がある。小さいといっても東京ドーム150個以上分?の広さだ。向こう岸?まで約3km、実際に走行してみると結構遠い。

地表は、ひび割れてめくり上がった、映画やテレビ、雑誌などで見るとおりのそのままだ。「乾燥」と言う言葉をイメージさせるには容易である。
日に照らされて温まった空気が上昇気流を作り、そして、遮るものがなく、山からの風が吹き込むからだと思うが、突然激しい風が吹くことがある。つむじ風と呼ぶにはあまりに大きな渦は、土ぼこりを巻き上げ何分もの間、生き物のようにドライレイクを駆け抜ける。
美しさと、厳しさ、無の恐怖が混在するこの場所に、人は一人ではとてもいられない。きっと乾燥が死に直結することを本能的に感じるからだろう。しかし、モーターサイクルと云う道具を持った我々ライダーは、この無為の大地も遊びの場にしてしまう。
ひたすら直線的に最高速チャレンジや、ダートトラックのようにグルグルと回ってみたり、大きなジグザグ、小さなジグザグを描いてみたりと、自由に走れる楽しさを存分に味わう。あるいは、道は自分で決めるものだと改めて思ったりも・・・。
もちろんドライレイクは、水がないから湖底を走ることができるわけで、ひとたび雨が降れば、水深数cmかもしれないが、まさしく湖となる。あるいは、干潟のような泥のグラウンドだ。
雨の後は走らないほうがよいが、乾燥している場合でも、メインの轍があるのならば、そのトレースを外れる場合は一応気をつけたほうがいいだろう。表面は乾いていても、底なし沼のような穴があるかもしれない。ドライレイクといえども湖なのだ。

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