乾燥した砂の大地、バハ・カリフォルニアは、人の生活に厳しい環境であるが故、開発の手が及ばずに特異な自然がそのまま残されている。
メキシコには、26の世界遺産が登録されているが、そのうちの3つが、バハ・カリフォルニアにある。
自然遺産として、エル・ビスカイノのクジラ保護区、そしてカリフォルニア湾の島々と保護地域群。文化遺産としてサンフランシスコ山地の岩絵群だ。
また、半島各地の海、山、平野部に、いくつかのナショナルパークが点在し、さらに、その世界遺産やナショナルパークを含む自然保護区がある。

不毛の大地とは対照的に、バハ・カリフォルニアの海は、豊かで生命感にあふれる。砂漠のイメージが強いバハだが、太平洋とコルテス海に囲まれた半島の海岸線の総延長は四国のそれに匹敵する距離がある。海の恵みがなければ、人々はあえてこの厳しい環境で生活してこなかったかも知れない。
エル・ビスカイノのクジラ保護区、カリフォルニア湾の島々は、まさにそんな豊かな海を象徴する自然遺産だ。
また、シロナガスクジラが子育てにやって来るという、Parque Marino Nacional Bahia de Loreto (ロレト湾ナショナルマリンパーク)や、、コロラド川の最下流部周辺に広がるDelta del Rio Colorado Biosphere Reserves(コロラド川デルタ保護区)、Parque Marino Nacional Cabo pulmoなど、地球規模の保護すべき生態系がある。

そして、SIERRA DE SAN PEDRO MARTIR NATIONAL PARK(サン・ペドロ・マルティル山脈ナショナルパーク)や文化遺産のサンフランシスコ山地の岩絵群は、乾いた大地に流れる川=水がキーワードだ。バハの街や村は、わずかに流れる川の流域と河口に発展してきた。
標高3100mの最高峰を含む山脈は、あるところから松などの森がひろがり、人を含めた生物にとって住みやすい環境である。砂漠とはあきらかに異なる植生で、生態系も異なる。この山地を流れる川には、マスも生息する。
やはり、「水」を求めて谷間に住んだインディヘナ達が残した数々のロックペインティングのうちのひとつ、Cuebas Pintas(クエバス・ピンタス)は、その名のとおり、ロレトから車で1時間ほど山に入ったところに流れる小川の脇の小さな洞窟に描かれたものだ。緑を求め生きたモンゴロイドの人々の生活を想像したくなる。
一方、乾いた大地に生きる動植物たちも、その厳しい自然環境に適応し、何世代にもわたり命をつないできた。
昆虫、ネズミやウサギの小動物からヘビやコヨーテまで、食物連鎖は完璧につながっている。
植物もわずかな雨を待ちつづけるもの、砂漠性気候特有の昼夜の温度差から発生する霧を利用するものなど、乾燥に強い種が目立つ。
サボテンと並んで最もバハらしい植物にシリオツリーがある。メキシコ本土にわずかに見られるが、大群落はバハ・カリフォルニアにしかない貴重な植物だ。北はエルロザリアから南はゲレロネグロまでの半島の中央部ほとんどすべてが、Valle de Los Cirios Nacional Area Protejidas(シリオの谷保護区)となっている。

ひょろっとして一見弱そうなシリオツリーは、近くで見ると以外に太く、電柱ほどもある。この巨大な「逆さまゴボウ」林のなかに入ると、太古の地球の姿を感じとることができる。
バハ・カリフォルニアも開発の速度が進み、舗装路も少しずつ増えている。しかし半島にあるほとんどの道は未舗装路だ。道を切り開いた時点で自然破壊だといわれればそれまでだが、この道が舗装されない限り、自然へのダメージは少ないだろう。年に1度だけ、こんな自然保護区でレースをさせてもらえるのを感謝したい。
|