「雨の少ないバハ・カリフォルニアでは、川はあるが、たいてい水が流れていないので橋がない。」というのは、今は昔の話しになりつつある。
砂漠性気候の乾燥した大地、そして川に水がないというのは、今も変わりはないが、ここ数年の好調な経済のおかげで、道路整備も進み、橋の建設も多くの川で行なわれている。

南北1600kmにおよぶ半島を貫く唯一の舗装国道1号線を南下して行くと、いくつかの街を通過するが、人の生活が成り立っている場所は、やはり水のある土地だという事がわかる。街の周辺には常に流れのある大きな川があり、延長数百メートルの橋が架かっているところもある。これらの大きい橋は、改修された物もあるだろうが、国道建設当初からあるようだ。
ただし、ひとたび街を抜けると、ところによって数100kmなにもない、砂とサボテンの荒野である。1年で数回しか流れが現れない川を渡るのに橋など架けても無駄だという考えだろう、「橋ないんだ!でも、水流れてないからいいのか」と納得する機会も多い。荒野の一本道を走っていると、何度も窪みを通過するのだが、その窪みこそが川なのだ。はっきり谷になっていると判る大きなものから、ただの道路のうねりかと思われるものまでさまざまだ。いずれも道路標識があるので、この先に川渡りがあるのだなと確認できる。ただの「窪み」だけど・・・。

ハリケーンなど、年に数回降る大雨の時は、道が寸断され、数日間身動きがとれないこともあるようだ。また、そのような流れの後は、道路上に砂や岩が堆積したり、崩れが生じたりと補修が必要になる。さらに、大きな「窪み」の場合、急激なアップダウンで、走行時に危険な場合もあるということが、以前より指摘されていたのは、注意を促す標識の多さからもうかがえる。橋を望む声が、好景気に後押しされ、ようやく橋を建設する方向になったのだろう。

世界最長のスプリントと呼ばれるBAJA1000のレース時には、ライダーを追いかけるサポート隊もかなりのスピードで国道をとばす。毎年必ずと言っていいほど、高い確率で、そのサポートクルー達の事故が起こる。最も有名な危険個所は、半島中央部の古い街サン・イグナシオの手前にある「コーク・スクリュー」と呼ばれるコーナーだ。やはり、川を通過する個所なのだが、ある程度深い谷となっているため、直線的に道を造ると急勾配となるため、「S」字に道を通した場所である。急角度で右に曲がりながら下り、左コーナーを登る「S」字だ。カーブと呼べるカーブがないほどの直線路を、手前の街から120kmほど走ってきた先にある罠だ。コーナーの手前にはオレンジ色に黒字の矢印で「カーブ注意」の標識がいくつも立てられているが、それまでの直線的な道路状況からすると予想外の急カーブで、「コーク・スクリュー」の餌食になる車がいるのだ。

この「魔のコーナー」でも、ようやく橋の建設が始まった。もっとも、川には水が流れていないので、単なる道路整備をしているようで、橋の建設だとは気が付かないのだが。
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