メキシコ料理に欠かせないものに、マメがある。 古代アステカの時代から、いや、それ以前からだろう、メキシコでは、トウモロコシとマメが主食となってきた。日本食の、米と漬物の関係あるいは、米と味噌などの大豆加工品との関係と同じく切っても切り離せないものだそうだ。

オフロードツーリングや、レースでバハ・カリフォルニアに渡る場合、アメリカ・ロスアンゼルス経由で向かうことが多いが、わずか4時間ほど南に下っただけで、アメリカ側での食事と、メキシコ入国後の食事の違いに驚かされることもあるだろう。
ハンバーガーなどのファストフードや、ファミリーレストランの大盛りのメニューから、どんなおかずにも合うご飯のような、トルティーヤが中心の食事となる。
そして、そのトルティーヤと一緒に必ず、フリホーレスが付いてくる。

フリホーレス(=frijoles)は、スペイン語でインゲンマメのことで、メキシコ先住民の言語が語源とされる。メキシコも含め南北アメリカ大陸の食文化におけるマメの登場率は高い。
マメ料理の代表的なものに、フリホーレス・デ・オジャ( frijoles de olla)、フリホーレス・レフリトス( frijoles refritos)がある。マメを柔らかく煮て、玉ねぎ、にんにくと共に炒め、塩で味付けをしたものが、フリホーレス・デ・オジャだ。そして、フリホーレス・デ・オジャをすりつぶしペースト状にして、さらにラードで炒めたものが、フリホーレス・レフリトスとなる。
一見すると、日本のお惣菜屋さんでよく見る赤紫の豆を甘く煮たもの、あるいは、おはぎの上にのっていそうなつぶあんによく似ているので、一口目の塩味あんこに驚くものだ。

メキシコではどの家庭でも作るようだが、レストランや食堂で、どんな料理をオーダーしてもこのフリホーレスが添えられている。ただ、家庭によってあるいは、お店によって、その色やつぶれ具合が、そしてもちろん味も異なる。
材料のマメの種類、色によっても違うが、豆の煮方、つぶし方でタイプが違う。
マメの煮汁がまだ十分あるうちに、マメスープとした状態から、柔らかくなるまで煮て炒めたフリホーレス・デ・オジャの状態、そしてつぶしたフリホーレス・レフリトスの状態、さらに、ミキサーにかけポタージュのようなソパ・デ・フリホーレスの状態まで変化する。

目玉焼きに添えられた朝食のフリホーレス、お昼のブリトーの中に巻かれたフリホーレス、そして夕食のステーキプレートの付け合せに盛られたフリホーレスと、毎食必ず、お目にかからない日は無い。はじめは、抵抗がある人もいるようだが、ほとんど三食必ず出されるので、食べなれると、これがないとなんだか物足りない感じになってくる。
砂とサボテンの乾燥したバハ・カリフォルニアの大地を砂埃にまみれながら走行したあとに寄ったブロック立ての小さな食堂で出された食事は、トルティーヤと、チリの酢漬け、そしてフリホーレスのみ。しかし、この組み合わせが素朴でなんともうまい。
トウモロコシとマメとトウガラシがあればあと必要なものはビールだけ。そうなればあなたは、もうメキシカン。
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