メキシコの人々は、その9割が敬謙なカトリック教徒である。年中行事も、宗教祭事に則られたものだ。もっとも宗教であるので、生活の全てがそうである。
スペインの侵攻以来、先住民インディヘナ達も改宗し、各地に教会が建てられていった。もちろん、バハ・カリフォルニアの人々も然り。オフロードバイクや4駆でしかたどり着くことができない小さな村でさえも必ず教会があり、人々は厚い祈りをささげている。
また、メキシコでは、グアダルーペの聖母信仰が強く、マリア様の像や、宗教画を見ることが多い。

一方、バハ・カリフォルニア半島およそ1700kmを縦断する唯一の国道1号線は、長距離トラックによる物資輸送の大動脈だ。とはいっても、サボテン林の間を走る、対向2車線の狭い道だ。ここ数年は穴ぼこだらけの路面はあまり見かけなくなり、道路整備が進んでいる様だが、路肩がほとんどない道幅10mほどの形態はそのままである。
また、数10kmも続く直線もあるが、九十九折れの山岳ルートもある。そして、背の低いガードレールの向こう側は崖の下といった感じだ。
乗用車クラスの車体でも走行が怖いそのような区間を通ると、道の数10メートル下にトラックの残骸が落ちていることもある。
そんな場所には必ず、不幸にして事故に遭ったであろう人々を弔う十字架や、記念碑がある。木で作られた簡単なものから、聖母の描かれた立派なものまで様々だが、道路沿いにある多くの十字架が、事故の多さを物語っている。逆にいえば、それらが、危険個所を教えてくれているので、安全運転を心がけるサインとなっている。

数100km大きな街がない、サボテンの荒野を走る区間では、道路沿いの大きな岩などにマリア様が描かれているところがある。日本でいう道祖神のような感じだろう、地元の村民が捧げたのだろうか、あるいは長距離トラックの運転手さんだろうか、ロウソクの火が灯っている。

カトリックでもない我々日本人でも、つい手を合わせて旅の安全を願ってしまう。ほんとうは胸の前で十字をきるのだろうけど、祈る気持ちが大事だから許してもらおう。マリア様が見守っていてくれるので、レースで、ツーリングで我々は安心してバハ・カリフォルニアの大地を自由に走ることができるのだと感じることができる。そしてオフロードライダーにとってのパラダイスが、いつまでもそのままであるようにとお祈りしてしまうのは欲張りではないだろう。
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