天に見放された半島とも呼ばれるバハ・カリフォルニア。サボテンと潅木しか生えない砂の大地で農耕に適した土地は少ない。川や湖は干上がり、稀に降った雨も逃げ水のごとく乾いた砂に消えてゆく。
そんな厳しい環境のバハ・カリフォルニアであるが、トマトやトウモロコシなどの農作物の栽培とともに重要な第一次産業に牧畜が挙げられる。

先住民インディヘナ達が残した壁画にもシカやヤギとともに牛が描かれている。もちろん主に狩猟で生活をしていた彼らが牧畜をしていたかは判らないが、古代よりバハの人々と牛との関係は深かったであろう。
15世紀以降のスペインの征服からしばらくして、牛の放牧も始まり、現代は、半島各地に牧場を見ることができる。
また、違った面でのバハと牛との関係では、その熱きスペイン文化の象徴、闘牛も行われている。

総延長1700kmにも及ぶ、半島を南北に貫く唯一の国道を通り縦断すると、いたるところで牛に遭遇する。
バハ・カリフォルニアでは、牧場といっても広大な土地を使っての完全放牧だ。杭と鉄条網の囲いで仕切られているが、どこからか抜け出した牛が道を横断していたり、文字通りの道草を食べていたりする。
片側1車線で、路肩が無い、名ばかりの「ハイウェイ」では、障害物に遭遇すると逃げ場がないのだ。
「牛に注意」の道路標識や、「家畜多し」の看板を見たら、ほんとうに注意して運転しなくてはならない。特に夜間や、早朝は、牛くんたちを発見するのが遅れがちだ。街灯などあるはずもない、暗闇の荒野の一本道で、黒毛の牛が黒いアスファルトの上に座っているということも珍しくない。実際、トラックに当てられたのだろう道路脇に倒れている牛を見かける。

BAJA1000のレースでは、そのコースが牧場周辺や、牧場の中を通る未舗装路を使用する区間もある。そのため、やはり夜間に多いが、レース中にヒヤリとすることもある。
レース用マフラーの騒音で驚いて逃げるが、レースも半ばを過ぎた夜間走行時は、数百台のレースマシーンも隊列がバラけ、静かになったコース上を横断している牛に出会うのだ。
彼らも、ライトの明かりに目が眩み、しばらく固まっているからワンテンポ遅れて逃げ出すので、こちらも慌ててブレーキを握りなおす。
メキシコの食べ物で一番先に思い浮かぶタコスは、トウモロコシの粉や小麦粉で作ったクレープのような皮、トルティーヤで、肉や野菜をくるんだものだが、なんと言っても炭火焼の牛肉を挟んでサルサソースをかけた「カルネ・アサダ」が、その代表格だ。
レストランでステーキをオーダーしてもメキシコでは主食がトルティーヤなので、必然的に「タコス・カルネ・アサダ」になってしまうが、いわゆる、タコススタンドで出されるタコスだけではなく、一般的な料理でも牛肉を使ったものは多い。霜降りのやわらかい牛肉ではなく、どちらかといったらパサついた肉だ。わずかな草を求めて国道沿いまで出て来る、やせた牛をみれば納得するだろう。
牛乳は、カタツムリマークや、帽子を被った少年マークの地元産のものが、スーパーに並び、チーズやヨーグルトなど新鮮な乳製品を買うことができる。
牛タンから牛乳まで、牛はバハの人にとっても大切な存在だ。頂く命は無駄にしない。いわゆる「モツ」を使った料理もある。
国道沿いの長距離トラック運転手相手の小さなレストランでの名物料理「メヌード」だ。牛の内臓を使ったスープあるいは、モツ煮だが、一日中荒野を走った後に暖かいメヌードを食べれば、栄養もギューッとつまった、モウし分ない味に大満足。
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