アメリカ西海岸、サンディエゴの南から太平洋にニョキッと突き出たバハ・カリフォルニア半島。 南北1700kmほどの半島を貫く唯一の国道1号線を、アメリカ国境の町ティファナから約590km南下すると、1号線から分岐してカリフォルニア湾(コルテス湾)に向けて1本の道が延びる。
アメリカより国境を越え下ってくると、その分岐を左に進み、海と出会ったところが、バイア・デ・ロスアンヘレスの街である。
1号線との分岐から約65kmの道のりは、1974年にようやくの舗装されたが、その後のメンテナンスはあまり行われなかったようで、以前は、穴ぼこだらけで、舗装されていることが逆に走り難い程であった。しかし、2005年に再舗装され快適になり、サンディエゴを早朝出発すればその日のうちに到着することも可能だ。
Bahia de los Angeles(バイア・デ・ロスアンヘレス)は、英語で表記すれば、Bay of Angeles(ベイ・オブ・エンジェルス)=「天使の湾」となる。
アメリカ西海岸の有名なロスアンゼルスと同じく、美しい地形から名付けられたのだろう。
一本道の両側に広がるエレファントツリーやシリオツリーといったバハ・カリフォルニア特有の植物群の中をしばし進み、サボテンがまばらに生える茶色の岩肌の山を一つ越えると、突然目の前に青い海が広がる。
空の青とは違う輝きを持った青い海、そしてそこに浮かぶ褐色の島々は、まさに天空を舞っている天使のようだ。
カリフォルニア湾とその島々は、その美しさばかりでなく、特異な生態系で、世界遺産にも認定されている。

バイア・デ・ロスアンヘレスは1539年に、コルテス隊のフランシスコ・デ・ウリョアにより発見され、その後、1746年にイエズス会神父フェルナンド・コンサグが上陸し、後に湾から35kmほど離れた山の上に建てられることとなるサンフランシスコ・デ・ボルハ教会への物資の供給拠点、そして、バハ・カリフォルニア半島全体を探検するための拠点として港が建設された。
近代は、1900年代に湾から15kmほどの鉱山で採掘された金銀を輸出する港として利用されていた。しかし、鉱物の枯渇に伴い、鉱山の街は捨てられ、港も活気を失っていった。
現代は、カヌーやウィンドサーフィン、ダイビングなどのマリンスポーツや、フィッシング、島巡りエコツアーなどの観光業、漁業が主な産業だ。

メインの国道から離れた、人口約500人の小さな街なので、つい最近までは、電気は自家発電だったので、ホテルでも夜10を過ぎると照明や、エアコンが消えてしまっていたが、2006年暮には、電線もつながり、街灯も灯るようになった。また、以前は、自動車修理屋さんで、ドラム缶からホースで売っていたガソリンも、街の入り口に2軒のガソリンスタンドが出来て、バイクでも1号線との往復時の心配がなくなった。
同じくカリフォルニア湾側のリゾート地、サン・フェリペと違い、アメリカから週末のアクセスとしては遠かった事も幸いしてか、あまり開発されていない海の自然はすばらしく、手付かずといっても良い。
ジンベイザメや、イルカ、アシカ等の海洋生物に出会えたり、カジキやその他何種類もの魚が釣れたり、街の外れには、ウミガメセンターがあり、孵化、放流が行われている。
バハ・カリフォルニアで発信器を付けたアカウミガメが、太平洋を横断し、日本を目指していく様子が人工衛星によって確認されたという。
ヒレを羽ばたくように優雅に泳ぐウミガメは、幸せを運んでくれる本当の天使かもしれない。
|